小説をば
「coffee world」
珈琲はおそろしい。
人とつながる半面、人と傷つけ合う。
市街の珈琲店に入った。
黒で統一された店内に、まばゆい西日が差し込んでいる。
カウンターの向こう、ホログラムが立ち浮かぶ。
「May I help you?」
ブレンドと応える。
テーブルに白いコーヒーカップが降りてくる。
底からコポコポ黒い液体が湧いてくる。
あたりが湯気で白く霞む。
カップに手をかけると友人たちの幻影が現れ、風景のようにスライドする。
一人をタップして選んで、いつものようにおしゃべりをする。
そのうち、付き合っていた女性からノックがあった。
ささいなことが原因で、互いに反目しあっていた。
「あなたと争う気はないの。ただ楽しい話をしたくて」
白々した会話が続いた。この珈琲を飲み干してしまおう。
そう思った時、背中を冷たいものと熱いものが同時に走る。
床に倒れた僕を、真っ白いシャツの彼女が見下ろしている。
「油断したわね。二度と珈琲を飲むことはできない」
天国に珈琲店はきっとある。
白いものに囲まれたお店だろう。
うつろう視界、テーブルの縁から落ちてくる珈琲のしずくを待ち受ける。
珈琲は素敵だ。
人と向き合い、時を分かち合う。